ゲノム編集による子どもの誕生についての声明

  2018年11月末、中国の南方科技大学の賀建奎副教授が、HIV(いわゆる「エイズウイルス」)への感染を抑止するために、ゲノム編集技術を用いた受精胚を使い、双子の女児を誕生させたとの報道がありました。詳しい報告は、アメリカ、イギリス、中国などの当該分野の科学者らが開催した「ヒトゲノム編集に関する国際サミット」(2018年11月27から29日、香港)でなされました。

  ゲノム編集技術は未だ発展途上の技術であり、出産が事実であるとすれば、出生する子どもへの予期せぬ副作用や人権問題など、医学的・倫理学的にみて重大な懸念があることが指摘されています。また、HIV感染の予防であれば他にも方法があったのに、このような方法を用いたことにも批判がなされています。生まれてきた子どもに害が及ぶ可能性があり、どのように親の同意を得たのかにも疑問が投げかけられています。

 これらも重い倫理的問題であり、こうした臨床研究と医療行為が許容しがたいことの理由として十分かもしれません。しかし、この臨床研究と医療行為が投げかけたさらに一段と重い倫理的問題があります。それは、遺伝子改変が世代を超えて不可逆的に子孫に伝わり、人類という種をゲノムのレベルで変えていくことの始まりになりかねないという点です。このことの是非は医学者・科学者や特定疾患の患者や関係者だけに関わるのではなく、人類全体の未来に関わるきわめて重い倫理的問題です。

 今回の報道から明らかになったのは、こうした世代を超えて伝わる生殖系列細胞(精子・卵子・受精卵)へのゲノム編集が比較的容易に行いうることです。しかし、このような極めて重大な倫理的問題をはらんだ臨床研究や医療行為が合意形成のプロセスを経ずに行われることはけっして許容できません。デザイナーベイビーというような事態が展開すれば、人類の育種、あるいは優生学的な改変につながります。特定の疾患の治療等のためになされることが将来ありうるとしても、それはごく狭い例外的な場合に限られなくてはならないでしょう。

 以上のような重大な懸念があるのですから、人間へのゲノム編集の適用、とりわけ生殖系列細胞への適用、さらには受胎についての法的規制について本格的に検討する必要があります。また、国際規制の可能性についても検討を始めるべきです。なぜなら、特定の国で規制されないということになれば、他の国々が倫理的配慮を重んじてもグローバル社会としてくいとめることはできなくなってしまうからです。

 こうした規制を検討するにあたっては、その倫理的根拠について深く掘り下げ、規制の理由を明らかにしていかなくてはなりません。広く市民とともにゲノム編集や人の初期のいのちへの介入の倫理問題について考え、社会的合意を得ていく必要があります。

 このような考察は当該分野の科学者の課題であるとともに、人文学や社会科学の諸分野の学術的課題でもあります。私ども、日本哲学会理事会・日本倫理学会評議員会・日本宗教学会理事会はこのような問題の重要性を十分に認識し、ゲノム編集や人の初期のいのちへの介入の倫理問題について社会的合意を形成すべく、そのための学術知識の基盤を充実させ、合意形成を目指した討議にも積極的に取り組んでいく所存です。

2018年12月25日

日本哲学会理事会

日本倫理学会評議員会

日本宗教学会理事会

 上記の声明文は、本学会理事会で承認されております。

 また、この声明文は12月25日、衆議院議員会館、厚生労働省にて、3学会の理事会・評議員会による共同記者会見で発表され、本学会からは島薗進常務理事が出席しました。



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